有機スズ化合物

水や食品などのさまざまなマトリックス中の有機スズ(有機第二スズ)化合物の検出に質量分析法が広く使用されている理由の一つは、その高い選択性です。

有機スズ化合物は炭化水素にスズが結合した化合物群です。有機スズ化合物は、プラスチック/ゴム素材の添加剤、木材防腐剤、船舶および漁獲網用の海洋生物剤、農業用殺菌剤などの工業材料に広く使用されています。これらの化合物は多くの経路で環境に侵入する可能性があり、水源、魚介類、果物、野菜および消費財中に多く認められています。

問題は、環境中に蓄積される有機スズ化合物の量が増大し、深刻な有害作用をもたらす可能性が存在するという点にあります。例えば、過去には船舶のコーティング材料として有機スズ化合物が広く使用されていましたが、トリブチルスズ(TBT)と呼ばれる有機スズ化合物の一種は、水生生物において抗アンドロゲン作用を示すことが明らかになっています1-2。また、食物連鎖による蓄積および生物濃縮を示す研究もあり、例えば私たちは汚染された海産食品や、有機スズ化合物を含有する農薬が使用された農作物を摂取しています3

以前は、これらの極性化合物の分析にはガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)が主に使用されていました。しかし、GC-MSは誘導体化を必要とし、クロマトグラフィーの分析時間が長いという欠点がありました。そのため、現在の環境科学の研究には、水から土壌、植物および繊維に至るさまざまなサンプルに、頑健な液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)が使用されています。LC-MS/MSの使用には以下の利点があります。

  • 極めて低濃度での定量を可能にする高い感度により、サンプル調製の簡略化が可能です
  • 頑健性の高いハードウェアにより、結果へのマトリックスの影響を排除できます
  • 高い選択性により、目的とする分析種から生成される特定のイオンをモニターできます

 

  1. Leung, K. M.; Kwong, R. P.; Ng, W.; Horiguchi, T.; Qiu, J.; Yang, R.; Song, M.; Jiang, G.; Zheng, G. J.; Lam, P. K. Ecological risk assessments of endocrine disrupting organotin compounds using marine neogastropods in Hong Kong. Chemosphere 2006, 65(6), 922–938. doi: 10.1016/j.chemosphere.2006.03.048
  2. Boyer, I. J. Toxicity of dibutyltin, tributyltin and other organotin compounds to humans and to experimental animals. Toxicology 1989, 55(3), 253–298. doi: 10.1016/0300-483x(89)90018-8
  3. Fent, K. Ecotoxicology of organotin compounds. Critical Reviews in Toxicology 1996, 26(1), 1–117. doi: 10.3109/10408449609089891

海水中のトリブチルスズを高速で選択的に分析するLC-MS/MSメソッド

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Quantitation and identification of organotin compounds in food, water, and textiles using LC-MS/MSダウンロード