ユーロフィン日本環境様に聞く、PFAS分析の現状とこれから

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耐久性や耐水性、耐油性などの特性を持たせることが可能なペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物 (PFAS) は、幅広く使用されてきており、環境中に遍在しています。しかし、その持続性と潜在的な健康への影響が大きな懸念を引き起こし、より正確な分析技術の必要性が高まっています。

このインタビューでは、PFAS分析のエキスパートであるユーロフィン日本環境のPFAS・PCBチームの門田めぐみ様、緒方駿様、R&Dチームの野島智也様、Tshumah-Mutingwende Rosamond様、町田瑞希様に変化の激しいPFAS分析にどのように対応しているのかを伺いました。

 

チーム体制と日常業務:複雑化するPFAS分析への取り組み

それではまず、皆さんの普段のお仕事や業務について教えてください。

緒方様:
私の所属しているPFAS・PCBチームはお客様から依頼いただいた試料の分析をおこなっています。日本の公定法やISO、EPAのメソッドに基づく分析に加え、野島のグループが開発した弊社独自のメソッドも活用しています。

野島様:
PFAS・PCBチームはSOPに基づくルーチン分析を担当していますが、私とRosamondは研究開発チームとして、SOPに沿わない特殊試料や実験系の分析を行い、試料の前処理やメソッド開発にも携わります。また、最新の公定法やメソッドを調査し、ラボ導入試験を経てルーチン分析チームへ展開する役割も担っています。

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町田 瑞希様
横浜PFAS事業部 PFASグループ 研究開発​

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緒方 駿様
POPsグループ PFAS・PCBチーム

2つのチームが連携してPFAS分析をおこなっているのですね。ところで、PFAS・PCBチームが主に分析する試料はどのようなものですか?

門田様:
環境試料の中でも水試料が6~7割で、残りの3割くらいが土、その他に、排ガスや廃棄物が分析の対象になっています。

緒方様:
ただ、最近では、環境水とされる試料の中にも排水に近いものが増え、適切なカテゴリ分けが難しくなっています。さらに、これらの試料はマトリックスが複雑であるため、より正確な定量値を得るための最適な分析手法を模索しながら測定を行っています。
主にSCIEXの5500で測定を実施していますが、厳しいマトリックスのサンプルを大量に分析しても、月に1度のユーザーメンテナンスで感度が維持できているのでとても助かってはいるのですが、マトリックスの影響を受けて測定がうまくいかないケースもあります。

昨年弊社のSCIEX 7500+システムを導入されたと伺いました。現在ご使用の5500に比べて感度は格段に上がるかと思います。装置の高感度化が複雑なマトリックス中のPFAS分析に役立つと思います。サンプルの難しさは常にあるかと思いますが、その他に分析においてどのような課題に直面されましたか?

Rosamond様:
顧客のニーズに対応するため、私たちは複数の分析手法を使い分けています。国際学会では、超短鎖PFASとUS EPA 1633の成分、あるいは80成分ものPFASを単一のメソッドで分析した例を見かけました。私たちは現在、超短鎖PFASとUSEPA 1633を別々の手法でおこなっており、前処理も異なるため、全体のプロセスが長くなってしまいます。また、PFTrAの濃度計算をExcelで対応しているため、効率面で課題が残っています。

SCIEXが新たに公開したテクニカルノートでは、超短鎖、短鎖、長鎖の PFAS 化合物を1つの条件で分析できます。また、PFTrA の計算、キャリブレーションに関する課題については、SCIEX OSソフトウェアでの設定方法をご用意していますので、どちらも紹介する機会を設けさせていただきたいと思います。

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Rosamond Tshumah-Mutingwende様
横浜PFAS事業部 PFASグループ 研究開発

規制動向と市場拡大を見据えたPFAS分析のこれから

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門田 めぐみ様
POPsグループ PFAS・PCBチーム

それでは、今後のPFAS市場についてお伺いしたいと思います。今後5年間で市場の変化に伴い、検査はどのように変わるとお考えですか?

門田様:
難しい質問ですね。PFAS市場は今後5年間で拡大すると予測しています。
EUや米国ではリスクベースの規制が進んでおり、各国で独自の規制が導入される方向です。これに伴い、今後は規制の進展が重要なポイントになるでしょう。
日本では、PFAS規制はストックホルム条約に基づき、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)を経て進められるため、他国に比べて遅れが生じています。ただし、2026年4月に飲料水規制が施行されることで、今後の拡大が期待されます。

北米などの食品検査のラボも似たような状況で、使用する手法や分析対象のサンプルは、規制に大きく依存しており、多くの場合、まずヨーロッパで規制が制定され、次に北米で導入される流れになっています。SCIEXでも同様に、規制を確認し、それに適合する方法を開発することを基本としています。ただ、それだけでなく、今後PFASの規制がどのように拡大するかを見据え、化粧品や繊維など積極的に新たなマトリックスを検討しています。
先ほどの質問と関連しますが、日本におけるPFAS分析はどのような方向へ進むとお考えですか?

門田様:
現在、国内で普及している公定法では、飲料水や環境水中のPFOA、PFOS、PFHxSが対象とされています。しかし、今後はより長鎖のPFASに対する規制の需要が高まり、対象物質を拡大した分析への関心が強まっています。
実際、昨年、環境省はISO 21675を用いた環境調査を実施し、30成分の測定を行いました。今後は、さらに多項目を測定可能なメソッドの需要が拡大すると考えられます。

素晴らしいですね。今後、貴社のラボからどのような新しいメソッドが生まれるのか、とても楽しみです。最後にもう一つ質問があります。同じ科学者として興味があるのですが、皆さんの新たな知見や得られた成果は、その後学会や論文などで発表されるのでしょうか?

野島様:
主に学会で研究成果を発表していますが、発表できる研究には制限があります。お客様の依頼に基づいてメソッド開発や測定を行う場合、ほとんどが秘密保持契約の対象となるため、公には公開できません。一方で、公定法の導入やその改良を行ったケースでは、学会で発表することが多いです。

確かに、機密性の高い依頼にも対応されているのでそのあたりは難しいですね。貴重な専門性と信頼の厚さがあってこそ、そういった依頼を受けられているのだと思います。公定法の導入や改良といったところでは学術的な貢献もされているとのことで、研究と実務の両面で業界に大きな影響を与えていらっしゃることがよく分かりました。
本日はありがとうございました。

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野島 智也様
横浜PFAS事業部 PFASグループ 研究開発

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インタビュイー:
ユーロフィン日本環境株式会社
ラボラトリー事業部 POPsグループ PFAS・PCBチーム
横浜PFAS事業部 PFASグループ 研究開発チームの皆様

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インタビュアー:
Holly Lee SCIEX Food LCMS Scientist