Technical overview
Rebehah Sayers、Katherine Tran、Neil Walsh
SCIEX(UK)、SCIEX(Canada)
データ非依存型取得(DIA)が大きな推進要因の一つとなって、質量分析(MS)ベースのオミックスの使用は、発見に重点を置いた基礎研究領域から臨床研究や精密医学に必要とされる包括的な縦断的研究の促進へとシフトしています。そのために必要な高分解能MSのスループットの改善を実現させると同時に、解析の深度、再現性および定量精度も最大化させなければならないという課題を解決するために生み出されたのがZT Scan DIAです。
SWATH DIAおよび直近のZeno SWATH DIAに続き、SCIEXによるDIA開発の次なるステップとしてZT Scan DIAが登場しました。SCIEXが2011年にSWATH DIAを発売して以来、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)を利用する研究者の間ではデータ非依存型取得がますます多く選択されるようになっています。SWATH DIAは、最新のMSシステムが可能とする速度および感度の向上を活用した高速LC-MS/MSワークフローとして出現しました。SWATH DIAは、膨大な数のタンパク質、ペプチドおよび代謝物の、従来のデータ依存型取得(DDA)よりも包括的な方法による同定を可能にします。SWATH DIAでは高品質の解像度のMS/MSデータが、同定だけでなく正確かつ精密な定量も可能にしています。
イオンの蓄積およびパルス化のための新規の装置であるZeno trap1, 2 の開発により、精密質量分析計の感度に新たな時代が開かれました。Zeno SWATH DIAではZeno trapを作動させることで、取得した各可変ウィンドウのMS/MS感度が向上します3 。Zeno trapにより、Zeno SWATH DIAの主要な性能特性が維持された状態で感度は4~20倍向上します4。
ここでは、DIAの解析深度と標的法の精度を組み合わせた新規のDIA法であるZT Scan DIAの概要をご紹介します。Zeno SWATH DIAと同様にZT Scan DIAは、MS/MSデータを用いた分析種の同定および定量を可能にします。このため、プリカーサーイオン全体における高品質のMS/MSデータの迅速な取得が、その基盤となります。ZT Scan DIAでは、四重極スキャンからのデータを追加することで定量的測定の深度および確度が改善されるため、複雑な生体試料に関する理解を深めることができます。
LC-MS/MSは、未知化合物の混合物の特性解析に広く使用されています。従来の方法では、可能な限り多くの化合物のMS/MSデータを取得するためにDDAが使用されています。DDAは十分に確立された手法であり、非標的サンプル解析が可能であるため、多くのアプリケーションに使用されています。しかしDDAでは特定の基準を満たすプリカーサーイオンのみがMS/MS解析に選択されるため、データセットが不完全になる可能性があるという一つの大きな欠点があります。また、検出の再現性も低下する可能性があります。繰返し測定間の保持時間のわずかなシフトによって各測定において装置に導入されるプリカーサーイオン集団が変動する可能性があるため、化合物の異なるサブセットが解析される可能性があります。近年MS技術の性能は大きく進歩していますが、非常に複雑なマトリックス中の化合物の特性解析には依然として限界があります。標的とするプリカーサーイオンのリストを使用して解析したい分析種に焦点を当てることで、この課題に対処することが可能ですが、そうすると真にバイアスのない全体的アプローチの利点が失われてしまいます。そのため複数のDDAデータセットを比較するとピークの欠損やギャップが見られる場合が多く、低レベルの分析種の検出にマイナスの影響が生じている可能性があります。
DDAにおける定量は、ラベルフリーのアプローチではMS1レベルで、ラベリングを使用する場合にはMS2レベルで行われますが、後者の場合サンプル調製中にプロトコールを追加する必要があり、そのための追加コストも発生します。このためDDA解析では通常、MSのフルスキャンデータから得られるインタクトなプレカーサーイオンを使用して定量が行われ、多くの場合同定も行われます。同時に溶出する同重体分析種、汚染物質および高いバックグラウンドが、たとえ非常に高い分解能を使用しても、MSレベルでの分析種の抽出の障害となる可能性があります。ピークの抽出および積分にMS/MSレベルのフラグメントイオンデータを使用することでバックグラウンドおよび干渉ピークが事実上除去されるため、定量の質を向上させることができます。さらにMS/MSレベルのデータを使用することで、サンプル調製ステップの追加や、MSレベルのデータを改善するためのより長いクロマトグラフのグラジエントの検討する必要がなくなります。
サンプルの複雑さが増大し、より高速でのクロマトグラフィーが使用されると、一定の時間単位により多くの化合物が溶出することになります。このことがMSレベルで見られる問題をさらに悪化させる可能性もあります。MS/MSレベルでの高い分解能を使用することで干渉ピークが存在している場合でも重要なフラグメントイオンの高品質な抽出および積分が可能となり、より低い検出限界および定量限界と、より高い定量精度を達成できます。グラジエント時間を短くすると、すべての分析種に関して最小限のデータポイント数を提供するために必要なサイクルタイムも短くなります。良好な定量結果を得るためには、サイクルタイムを十分に短くして各分析種が溶出するLCピーク全域において最低10ポイントでデータ取得されるようにする必要があります。したがってデータ取得回数とアキュムレーションタイムのバランスに注意して、特定のクロマトグラフィー条件において十分なデータポイントが得られるサイクルタイムでのランを行う必要があります。DDAではMS/MSレベルのデータの再現性および精度が十分ではなく、生物学的試験に必要な高品質な定量的データは提供されません。
DIAアプローチの主な目的は、選択したm/z範囲のすべての分析種をその強度に関係なくフラグメント化することです。したがってDDAとは異なり、MS/MSデータの生成は、サーベイスキャンにおけるプリカーサーイオン検出に依存しません。しかし、こうして得られたMS/MSデータは複雑であるため、スペクトルの解釈が困難となる可能性があります。したがって、すべてのDIAベースの解析の検出力は、フラグメンテーション前の選択性およびそれに続くイオン検出のレベルと関連しています。DIAアプローチの中で最も選択性が高いのは、インフュージョンを使用したMS/MSALLワークフローであり、特定のマスレンジ内のすべてのプリカーサーのプロダクトイオンスペクトルが取得されます。典型的な実験例では、m/z 200~1500のTOF MS測定に続いて、m/z 200.015~1200.051において1 Daのステップサイズで1001のMS/MSスペクトルが連続して取得されています。MS/MSALL実験では、サンプル内のすべてのプリカーサー、プロダクトイオンおよびニュートラルロスの完全な記録が収集されます。このワークフローは脂質の発見定量にはパワフルなツールとなりますが、クロマトグラフィーによる別次元の分離なしでは、このワークフローを複雑なサンプルのプロテオミクス解析に使用することはできませんでした。
2012年、データ非依存型取得法であるSWATH-MSが初めて発表されました5。SWATH DIAでは、存在量やその他の基準に関係なく、イオン化可能なすべてのプリカーサーをMS/MSで解析できます。その結果、すべてのプリカーサーイオンのフラグメントデータを含む完全なデータセットが得られ、再現性が改善します。SWATH DIAはもともとプロテオミクス実験への使用を念頭に開発されたものですが、現在ではそのワークフローはメタボロミクス、環境スクリーニング、食品検査、法医学および医薬品分析など、さまざまな用途に使用されています6。SWATH DIAでは、より広いプリカーサー選択ウィンドウがMS/MSに使用されるため、複数の化合物イオンを同時に解析できます。これらのウィンドウをプレカーサーマスレンジ全体でステップさせることにより、各サイクルにおいてすべてのプレカーサー質量がフラグメント化されます。SWATH DIAから得られるMS/MSスペクトルは、DDAの場合よりも複雑になる傾向があります。SWATH DIAでは、可変ウィンドウを使用することで選択性をより高めることができます。可変ウィンドウでは、各プリカーサーウィンドウの幅をそのマスレンジに存在するプリカーサーイオンの密度に応じて調整することができます。プリカーサーイオンの密度が最も高いマスレンジでは非常に狭いウィンドウを使用し、プリカーサーイオンの密度が低い部分ではより幅広いウィンドウを使用します。選択性および特異性の向上によって、得られるデータの品質が大きく改善されます。プリカーサーイオンの単離ウィンドウの幅は通常2~50 Da(またはそれ以上)です。単一のSWATH DIAプリカーサー単離ウィンドウ内に2つ以上の化合物イオンが存在し、溶出時間が類似している場合でも、通常はLCプロファイル相関に基づく方法によりMS/MSのデコンボリューションを行うことができます。しかし2つ以上の化合物イオンが同一のプリカーサー単離ウィンドウ内に存在し、溶出時間も同一である場合には、フラグメンテーションシグナルのデコンボリューションは不可能です。一つの解決策として各内部標準が独自の狭い単離ウィンドウを有するように、SWATH DIAプリカーサー単離ウィンドウをデザインする方法が考案されました。しかし、この方法は測定する化合物に非常に特異的な方法となります。この方法では新たな化合物を追加するにために操作を追加する必要があり、一般的で設定が容易な方法であるというSWATHワークフローの重要な利点の一つが活かされなくなります。より高いスループットを達成するためにクロマトグラフィーを短縮すると、これらの問題がさらに悪化する可能性があります。この場合、全体的な取得時間が短いMSメソッドを使用することが必要となります。
ハイスループット解析は、質量分析装置のサンプリング速度およびシグナル干渉の発生によって制限されます。クロマトグラフィーの各ピークに関して正確な定量を可能にする十分なデータポイントを取得するためには、短いデューティサイクルタイムが必要です。DIAにおいて短時間のグラジエントでこれを達成するためには、より広いDIA単離ウィンドウを使用することで選択性を犠牲にするか、個々のDIAウィンドウのMS/MSスキャン時間を制限することで感度を犠牲にする必要があります。しかし、いずれもペプチドおよびタンパク質の定量および同定の精度に影響を及ぼす要因となる可能性があります。これらの課題を解決するニーズから開発されたのが、DIAに代わるScanning SWATHワークフローです7,8。Scanning SWATHワークフローでは、マスレンジに沿った四重極のスキャンを、SWATH DIAの場合のようにステップを使用するのではなく連続的に行います。イオンは、Q1のランプと同期して各TOFパルスに沿って記録されます。これによって、すべてのイオンが、m/z、LC保持時間およびQ1ウィンドウの位置の3つの独立した座標によって特性化されます。Q1の座標からは、フラグメントイオンを、フラグメントイオンの出現/消失と特定の時点におけるQ1単離ウィンドウ中のプリカーサーの存在との相関付けにより特定するために使用する情報が提供されます。また、このScanning SWATHワークフローのQ1座標ではプリカーサーのシグナルを、内部フラグメントに由来する同一のm/zを有する干渉信号、低いコリジョンエネルギーで発生する付加または損失信号から識別することで、単純なMS1スキャンよりも明確なスペクトルを得ることができます。しかし、感度を改善し、より迅速にランを行う必要性は依然として存在します。
四重極飛行時間型(QTOF)装置では、四重極コリジョンセルから入ってきたイオンをフライトチューブ領域に直角に導入する方法が最も一般的ですが、その理由はこの構造によりスキャンを必要とせずにスペクトル全体で最大のTOF分解能、質量精度および感度を得ることができるためです。しかし、このタイプのイオン導入法にはデューティサイクルが比較的低くなるという欠点があります(図3a)。一般的に加速器の各パルスで放出されるイオンは、装置の形状およびm/zの範囲によって、わずか5~25%です。最新のイオンソース(TurboVイオンソースなど)によって生成され最新のイオン捕捉技術(QJetイオンガイドなど)によって伝達されるイオンビームは、むしろイオン量を低減させて飽和を防止しTOF MS検出器の寿命を守る必要があるため、MS1では通常さほど高いデューティサイクルが必要ありません。しかしMS/MSでは、デューティサイクルを改善することで感度が著しく向上する可能性があります。
イオンの損失はコリジョンセルとTOF加速器の間のドリフト領域により生じますが、そこではイオンが位置的に広く分散しています。そのため一部のフラグメントイオンスライス(パルスが適用される適切な位置に存在するもの)のみがTOFフライトチューブに導入されて検出されます。その結果、各パルスにおいてかなりの割合のイオンが失われます。これまで、この同期性の欠如を克服する試みが数多く行われてきました。しかし同期性が達成できたのはマスレンジが狭い場合や取得頻度が低い場合に限られていました。
Zeno trapを使用することで、これらの技術的障壁を克服することができ、最大133 Hzの取得周波数で全m/z範囲においてデューティサイクルの損失を回避することができます(図3b)。それを可能にしたのは、コリジョンセルの出口に設置された線形イオントラップであるZeno trapの使用です。イオンのトラップおよび放出のメカニズムが図3に示してあります。イオントラップに入ったイオンはZGとIQ3レンズの電位バリアにより保持され、それに続くイオンのパッケージはLINACコリジョンセルに蓄積されるためイオンの損失が防がれます。トラップされたイオンはエネルギー的に冷却された状態で維持され、その後ポテンシャルエネルギーに基づいて、通常は高いm/zから低いm/zの順序に放出されます。このようにして、マスレンジ全体のイオンがTOF加速器のパルス領域に到達します。図3に示されているように、トラップして放出させるというこのシンプルなメカニズムによってMS/MS感度が大きく向上します。Zeno trapを使用したMS/MSにより、低m/zフラグメントでのゲインが増大し、4~15倍またはそれ以上のシグナル増加を達成できます。Zeno trapにより提供される効率と正確なイオン放出時間の組み合わせにより、マスレンジ全体において≥90%の理論的増加が得られます。高分解能MS/MSデータは選択性が高く、このようにシグナルが改善してもノイズへの変化は無視できるため、シグナルで認められた増加に相当するシグナル対ノイズ比がスペクトルおよびクロマトグラフィーにおいて得られます(図4)。
このようなMS/MS感度の改善は、定量分析のLOQを劇的に改善させるのみならず、ワークフロー全体を大きく進化させます。Zeno trapを作動させることで、これまでより極めて少量のサンプルでも高品質のMS/MSスペクトルが得られ、確認、同定、またはライブラリーマッチングが行えます。サンプルをさらに希釈し、注入量を全体的に低減させることで、サンプルの消費量、有害なマトリックス効果、MSシステムの汚染および検出器の劣化を最小限に抑えることができます。同一のサンプル注入量でも、Zeno trapを作動させたMS/MSでは化合物同定の信頼性が向上しており、新たな代謝物、ペプチドバイオマーカーおよび汚染物質の発見をこれまでにない低濃度で達成することができます。
SCIEX QTOFシステムにZeno trapを組み込むことで、SWATH DIAワークフローをさらに強化することができます。Zeno SWATH DIAは、Zeno trapが可能にする感度の向上とSWATH DIAの再現性および精度を合体させた手法です。Zeno trapが提供するデューティサイクルの改善によってMS2レベルでの感度が向上し、20 ng未満のサンプル量において最大3倍のタンパク質を同定でき、約3~6倍のタンパク質を定量できます。高品質のMS/MSスペクトルが得られることで、高品質のMS/MS抽出イオンクロマトグラム(XIC)およびペプチドの高品質なトータルイオンクロマト(TIC)プロファイルが得られることになり、同定された多くのタンパク質の定量を、CV20%未満という高い再現性で実行できます9。
MS技術の継続的な改良の結果、高分解能装置の感度はより高くなり、より早いスキャン速度での操作が可能となってきています。それによって低サンプル量でのカバレッジ深度の限界が押し上げられ、困難な高スループットのオミックスワークフローにも対応できるようになってきました。短時間でのグラジエントを使用するMSベースの方法では、同定数と測定精度のバランスを取るために短いサイクルタイムが必要となります。LCのスループットが高くなるにつれて従来のDIAでは、MS/MS取得時間を短縮させる、またはウィンドウ幅を広げる必要がありますが、前者ではデューティサイクルが低下し、後者では特異性が低下するという問題があります。Zeno SWATH DIAは、タンパク質の同定および定量において本当にパワフルなメカニズムではありますが、得られるMS/MSスペクトルが非常に複雑な場合にはプリカーサー質量のフラグメントへの割り当てが困難です。グラジエントが最短の場合、クロマトグラムのピーク全体で定量のために必要なサンプリングポイント数を維持しながら特異性を達成することは困難となります。そのため特異性を損なうことなく、Zeno SWATH DIAよりも高い速度でスキャンを実行できるDIAメカニズムの必要性が生じています。
Scanning DIA法は、Zeno trapが可能にする感度の向上およびデューティサイクルの改善が組み込まれた、研究用に改変されたZeno trap作動QTOFによって実行されました。ZT Scan DIA法には、従来のDIA法と比較して2つの大きな利点があります。まずZeno SWATH DIAでは、個々のDIAウィンドウからのMS/MS取得間にコリジョンセルを空にする必要があり、MS/MSイベントあたり1~2 msのロスが生じます(図5a)。取得速度が増大するにつれて、このロスはデューティサイクルの低下につながり、6.6 msではMS/MSあたり80%未満に低下します。これとは対照的にZT Scan DIAではこのような制限はなく、より速い取得速度でもより高いデューティサイクルが可能となります。第二に従来のDIAでは、フラグメントイオンのプリカーサーイオンへの割り当ては、Q1スキャンウィンドウの幅内での保持時間の類似性のみに基づいて行われます。しかしZT Scan DIAではこのような制限がなく、より正確なプリカーサーイオンへの割り当てが可能となります。このため同時に溶出する同重体分析種、汚染物質および高いバックグラウンドなど、たとえ非常に高い分解能を使用しても、特にMSレベルでの分析種の定量に影響を与える可能性のある物質による干渉が低減されます。ZT Scan DIAではMS/MSの選択性およびQ1次元の利用により、定量の正確さおよび精度が最大限に高められます。最高のスキャン速度と Zeno trapの使用を組み合わせることで質量分解能と精度が保持され、分析種の最大の同定および定量が可能となります。
各サイクルにおいてMS/MSのための単離ウィンドウを、MS/MS取得速度で関心領域のm/zに沿ってスライドさせます。400~900 m/zの範囲では5 Daの単離スライディングウィンドウで750 Da/sのスキャンを行うことで、640 Hzに相当するスキャン速度が得られます。単離ウィンドウがマスレンジに沿ってスキャンされる間、イオンが各TOFパルスにおいて記録されます(図5b)。Scanning DIAメカニズムではコリジョンセルを空にする必要がないため、サイクルタイムを短縮できます。各フラグメントイオンは、プリカーサーm/zが四重極の先端を通過してから後端を通過する間の時間に観察されます(図5e)。このためフラグメントのプリカーサーへの割り当てに、m/z、強度および保持時間に加えてもう一つの次元のQ1を使用することができます(図5d)。ZT Scan DIAで加えられるこのQ1次元によって、プリカーサーのシグナルを、内部フラグメントに由来する異なるm/zの干渉信号および低いコリジョンエネルギーで発生する付加または損失信号から識別することが可能となります(図5e)。その結果、複雑な分析種の高い特異性でのデコンボリューションが可能となります(図5f)。
この高速でのスキャンと高い感度の組み合わせにより、各サイクルで生成される高品質のMS/MSスペクトルの総数が最大化されます。これによりサンプル中のすべてのイオンに関してPRMレベルのデータが得られ、特異性が向上する結果、同定および定量された分析種の総数の信頼性が高まります。またスキャン速度を上昇させることでLC分離の時間を短縮でき、スループットおよびラボの生産性を向上させることができます。これにより、根底にある生物学的変化のより包括的な理解が可能となります。ZT Scan DIAでは、貴重なサンプルからより詳細な情報を入手できます。各TOF実験にはより有用なMS/MS情報が含まれており、特にこれまで検出不可能であった少量の分析種についても有用な情報が得られるため、新たなレベルの感度および特異度への道が開かれます。